薬?お菓子?小田原のういろうってなに?
「ういろう」といえば、名古屋の甘い和菓子を思い浮かべる人が多いでしょうが、小田原の「ういろう」は薬です。
木の根・皮・実・種や草などの自然のものから作られた生薬で、600年以上前の室町時代から万能薬として広く認知されてきました。
中国から外郎(ういろう)家によって伝えられたもので、古くは中国の王冠の臭い消しとしても使用されていたという、仁丹にも似た独特の香りをしています。
「ういろう」の正式な名前は「透頂香」(とうちんこう)というもの。
室町時代から21世紀の現在まで、脈々と外郎家に一子相伝として代々伝わる製法を堅持している、唯一無二のものであることから、古くから「ういろう」の名前で親しまれています。
薬機法としては「薬局製剤」として分類されているものです。
小田原のういろうはいつからあるの?歴史は?
小田原のういろうは、チンギス・ハンやフビライ・ハン、元寇などで馴染みのある、モンゴルから発祥して中国全土を支配した国・元が滅びる頃から、歴史が始まります。
当時の元の医薬担当の役人だった 陳延祐という人物が、日本に亡命してきたのが事の起こりです。
当時の日本は室町時代だったのですが、陳延祐はまずは博多に居住し、珍外郎と改名して医薬の仕事を始めます。
当時の中国の医学は日本にとっては珍しく貴重なものだったために、珍外郎は幕府に注目されることとなります。
外郎家2代目に時に、室町幕府の将軍・足利義満に招かれて京都に移り、朝廷典医を務め、処方する薬が重宝されるようになりました。
この頃に薬の他に来客用のお菓子も作るようになり、外郎家の菓子として評判を取るようになります。
やがて外郎家5代目の時代に、北条早雲に招かれて小田原に移り、八棟造りの屋敷を建てて、ういろうの製造販売をするようになります。
時は戦国時代に移り変わり、やがて小田原城も攻め落とされるようになりましたが、豊臣秀吉からも引き続き商売をすることを許され、その後も外郎家の繁栄は絶えることなく続き、小田原の名物として定着してきました。
江戸時代の大ベストセラー小説『東海道中膝栗毛』の中でも登場しますし、歌舞伎役者・市川團十郎による『外郎売』も有名ですね。
『外郎売』は、市川團十郎自身が喉を痛めて困っていた際、ういろうを飲んで快方したことから創作した演目と言われています。
現在でも『外郎売』は、歌舞伎の十八番として親しまれていますし、プロのアナウンサーや劇団員の訓練として使用されている、早口言葉としても定番となっています。
外郎家は代を重ねて現在では25代目。
今も小田原の地で、ういろうの販売を続けています。
元々は漢方だった小田原のういろう。効能は?
中国伝来の薬として朝廷や幕府でも重んじられていたういろうは、万能薬・常備薬として知られています。
早口言葉でもお馴染みの歌舞伎『外郎売』で、その効能の万能さを読み上げる様は印象的ですね。
現在のういろうの商品に記されている効能は以下のようなものがあります。
- 胃痛
- 腹通
- 眩暈
- 霍乱
- 食物中毒
- 悪心嘔吐
- 鬱気
- 痰咳
- 心悸亢進
- 滋養補血
- 頭痛
- 中寒
- 中暑
- 整腸
- 牙痛
その他にも急病の際にも効果があると書かれていて、何にでも効く万能薬と言えそうですね。
小田原のういろうは生産が少ないって本当?
ういろうは10種類以上の生薬からできています。
製造方法は、600年以上も前の方法を忠実に守っているため、オートメーション化した大量生産はしていません。
おまけに最近の環境破壊によって、生薬の原料も少なくなってきているので、余計に生産数が減ってきています。
これはなにも「ういろう」に関してだけではなく、生薬を原料とする漢方薬全般にも言えることで、有害な農薬などの混じっていない生薬の生産量を確保することが、製薬業界の課題のひとつになっているようです。
生産が少なくて手に入り難くなっていることは残念ですが、それだけ希少価値は高まってきていると言うことができるでしょう。
小田原のういろうの販売方法は?通販でも買える?
小田原の薬のういろうは、インターネットや電話受付などによる通販は行っていません。
小田原のお店での販売のみとなっています。
外郎家には商売一辺倒というのではなく、文化と共に製薬と製菓を営むという企業理念があります。
室町時代に作り始めた当初から、現在も変わらない方法で、手間ひまをかけて製造し、お客さんと対面して手渡しで販売するという、自分たちの目の届く範囲の仕事の仕方を心得としているのです。
「薬はあくまでも人の命を救うもの」という言葉が、代々外郎家に引き継がれている家訓。
そして先祖から、小田原の地域の健康を守ることを任されているので、他の地域で販売することなく、頑なに小田原での販売に拘っています。
そのため、薬のういろうを手に入れるためには、小田原まで行く必要があります。
実際に全国各地から、ういろうを目当てに多くの人が訪れるようです。
1504年に北条早雲に招かれて小田原の地に移り住んで以来、その後の数々の混乱期も乗り越えてきた外郎家ならではの、堅実で実直な方針と言えるでしょう。
原材料の不足と歴史ある製造方法のために、生産できる数は限られていますが、薬を必要としている人のために品切れは起こさないように気を使いながら販売をしています。
そのために一人でたくさん買い占めることはできず、一度に購入できるのは最大でも2つまでとのこと。
「せっかく小田原まで来たのだから」という気持ちで、たくさん買って帰りたくなる人もいるかもしれません。
しかし、ういろうは小田原の名物ではありますが、あくまでも薬です。
身体の調子が悪い人、健康に不安がある人のためにあるものなので、「お土産感覚でみんなにお裾分け」という訳にはいかないようです。
小田原の万能薬ういろうの値段は?他の薬もあるの?
小田原の本店でしか販売していないういろうは、全部で3種類のパッケージがあります。
- 1,000円:小さいビニール袋1個:141粒入り
- 3,000円:小さいビニール袋3個:423粒入り
- 5,000円:中位のビニール袋4個:728粒入り
数に限りがあるので、一人でたくさん買えなくて、コスパが良いことから5,000円のものを買う人が多いそうです。
ただし買う際には注意が必要な面もあります。
普通の買い物をするように、ふらっとお店に入って「これ下さい」というような訳にはいきません。
自分の症状を薬剤師の方と話し合って、症状がういろうを処方するのに適している場合にのみ、販売するようになっています。
相談の結果販売される場合には、症状に適した飲み方のアドバイスもしてもらえるので安心ですね。
ういろうは万能常備薬として有名ですが、昔は旅のお供として、旅行に行く際には懐に携えていた場合も多いようです。
お出かけに常備するために便利な、薬入れの容器が印籠。
時代劇の水戸黄門が懐に入れていて、いざという時に取り出す奴ですね。
小田原ういろうでは、印籠も販売しています。
黒・赤・ピンク・グレーと、カラフルな色の印籠が揃っていて、価格は1,500円。
薬と同時に購入するのもいいかもしれませんね。
ういろうの他にも販売している薬が2種類あります。
- 妙香散:頭痛や眩暈など。更年期障害に効果があります。:90包9,000円/15包1,600円
- 振出し五香湯:冷え性や風邪に効果。ティーバッグになっています。:30日分8,000円/4日分1,200円
いずれの薬も購入する際には、薬剤師の方に適切なアドバイスをもらうようにして下さい。
小田原のういろうではお菓子のういろうも売ってる!値段や賞味期限は?
「小田原ういろうとは薬」と先述しましたが、小田原ういろうで売っているのは薬だけではありません。
甘いお菓子も売っています。
お菓子のういろうの起源には諸説がありますが、外郎家2代目が京都に招かれて移り住んだ際、お客様をもてなすために、と作られたものが発祥とも言われています。
小田原に招かれて以降も、お客様のおもてなし用として作られていましたが、販売はしていませんでした。
販売を開始したのは明治になってから。
薬と同様に、お菓子のういろうも伝統の製法を守っているので、室町時代からの甘さを抑えたやさしい味が特徴的。
胃腸の弱い人や、産後間もない婦人でも食べられるように「栄養菓子」と記されています。
小田原ういろうは、白・黒・小豆・茶・栗の5種類。
価格は700円ですが、栗のみ900円。
賞味期限は10日間です。
その他にも、1棹1,500円の「ういろう羊羹」や、桐と印籠の2種類の形のある「ういろう最中」、一口サイズの半生菓子「錦甘露」などのお菓子も販売しています。
小田原のういろうに行こう!アクセスや営業時間
小田原の駅からは少し離れていますが、小田原城のほど近く、箱根に向う東海道沿いにある、お城みたいな立派な建物が「ういろう本店」です。
小田原城かと間違えそうな建物は、地元では「ういろう城」とも呼ばれ、名物のひとつとなっています。
5代目が北条早雲に土地を与えられ、建てた屋敷が八棟造りでしたが、現在のういろう本店も同じく八棟造り。
500年以上の長い歴史の中で、度々建て替えられていて、現在の建物は平成9年築。
店内では薬とお菓子を販売しています。
訪れるだけで、ちょっとしたタイムスリップ感覚を味わえるお店ですよ。
お店の名前 株式会社 ういろう本店
住所:神奈川県小田原市本町1丁目13−17
電話番号:0465-24-0560
営業時間:10:00~17:00
定休日:毎週水曜・第三木曜
URL:http://www.uirou.co.jp/uiro.html
小田原でういろうを買った後は別館で中華を食べよう!
小田原ういろうは、本店の隣に別館として中国料理店を営んでいます。
「杏林亭」という名前で、医食同源をモットーに、身体によい食事を提供しています。
営業時間は昼間だけですが、なかなか本格的な中華料理を提供しているようです。
ブランチや昼食、午後のティータイムということもあって、飲茶セットが人気です。
レストラン名 ういろう別館 杏林亭
住所:神奈川県小田原市本町1丁目13−15
電話番号:0465-43-6672
営業時間:10:00~15:30(ラストオーダー15:00)
定休日:水・木
小田原のういろうに興味を持ったら博物館にも行ってみよう!
小田原ういろうの歴史に興味があったら、本店に併設されている博物館に立ち寄ってみるのもいいでしょう。
平成17年に開設された博物館ですが、建物はとても古いもの。
明治18年に建てられた蔵を利用しているのです。
関東大震災や太平洋戦争を乗り越えてきた蔵は、博物館の建物自体が貴重な文化財と言えそうです。
中には、小田原ういろう本店の昔の写真や看板などが展示されていて、ういろうにまつわる歴史やエピソードなども、わかりやすく解説されています。
入館料は無料。
店員の方に声をかけて、案内してもらうという形になります。
小田原ういろう本店は、小田原では最も古い歴史の商家なので、地域の歴史を知るうえでも、貴重な体験ができそうです。
小田原ういろう本店には、博物館の他に喫茶室も併設されています。
買い物を楽しみ、歴史に触れて、さらに一服ゆったりとした時間を過ごすのも、いい旅の思い出になりそうですね。
観光地名 外郎(ういろう)博物館
住所:神奈川県小田原市本町1丁目13−17
電話番号:0465-24-0560
営業時間:10:00~17:00
定休日:毎週水曜・第三木曜
URL:http://www.uirou.co.jp/uiro.html
【番外編】小田原のういろうと名古屋のういろうは何が違うの?
このように歴史的にみると、小田原のういろうは600年以上も歴史があるのですが、世間では「ういろう」といえば名古屋、という認識の人の方が多いのではないでしょうか。
名古屋ういろうの老舗「青柳総本家」が創業したのが明治12年。
外郎家の2代目がういろうを作り始めたのは室町時代のことなので、歴史としてはだいぶ差があります。
名古屋のういろうが有名になったのは、1964年に東海道新幹線が開通したことがきっかけと言われています。
名古屋・青柳の外郎が、新幹線の車内販売での販売を許された初めてのお菓子だったということで、全国的に知名度をあげていき、やがて名古屋の名物として定着していきました。
名古屋のういろうは、現代人の口に合った甘いお菓子ですが、小田原のういろうは甘さを抑えた、あっさり味。
室町時代から続く製造方法が、小田原ういろうと名古屋のういろうの、大きな違いを生んでいるということでしょう。
歴史ある万能薬ういろうで健康に!
東海道の箱根への玄関口・小田原は、歴史のある穏やかな気候の町です。
小田原城の天守閣から眺める相模湾の景色は雄大ですし、海の幸は美味しく、城下町の散策は楽しみがたくさんあります。
小田原ういろうは、小田原でしか購入できません。
小田原を訪れる際には、ぜひ小田原ういろうにも立ち寄ってみませんか?
歴史を感じながら健康に気を使い、そして美味しいものもいただけます。
旅のお供に「薬のういろう」を持っていれば、心が少し軽くなるかもしれませんね。