日本最大の砂丘「猿ヶ森砂丘」はどんなところ?
出典:OpenStreetMap and contributors CC-BY-SA
猿ヶ丘砂丘(さるがおかさきゅう)と呼ばれる砂丘は青森県東通村(ひがしどおりむら)の大字、尻労(しつかり)から同じく大字の小田野沢にかけて広がる地帯です。
幅は約2km、長さは約17km、面積は約15000ha。これは鳥取砂丘の面積約545haのおよそ30倍に当たる広さです。
「下北砂丘」とも呼ばれていて、実質的には日本一大きな砂丘ということになります。
こうして比べてみると、いかに鳥取砂丘が狭く、猿ヶ森砂丘が広いかよく分かります。
猿ヶ森砂丘は大昔、小さな丘だったのですが、今から約5000年前以降の風食と人々の生活によって次第に大きくなり、現在の広大な砂丘になりました。
太平洋から風で運ばれてくる飛砂が猿ヶ森砂丘形成の最も大きな要因と言われています。
後ほど詳しく説明しますが、鳴き砂、ヒバ埋没林、砂丘湖、豊かな動植物の生態系、と見所は大変多く、旅行者の興味を引く要素が満載です。
関東圏から青森の猿ヶ森まで行くとなると、とても時間がかかり、骨が折れてしまいそうですが、なかなか普段お目にかかれない「砂丘」を見に行くというのも面白いですね。
猿ヶ森砂丘はどうして観光できないの?弾道試験場ってなに?
そんな素敵スポットの猿ヶ森砂丘ですが、なぜ知名度が低いかというと、その大部分が立入禁止区域だからです。
出典:OpenStreetMap and contributors CC-BY-SA
実はここ猿ヶ森砂丘は、そのほとんどが防衛装備省の管轄する弾道試験場に指定されていて、別名「防衛装備庁下北試験場」や単に「下北試験場」とも呼ばれます。
上の地図で示した通り、オレンジの斜線されたエリアが立入禁止エリア、青色で塗り潰されたエリアが観光可能エリアです。
観光ができるのは全体のわずかな区域しかありません。
弾道試験場とは、新しく開発や導入された軍隊の兵器、装備を試験運用して、性能をテストする場所です。
猿ヶ森砂丘は元々地形の起伏が少なく、遠くまで見渡すことができるので、性能テストを行うにはもってこいのようです。
一般の観光客が立入禁止なことにより、市販されている旅行雑誌や地域の観光マップに掲載すらされていません。
見所が多いだけに、旅行者からしてみれば残念で仕方ありませんね。
猿ヶ森砂丘は観光できるところも!おすすめの観光スポット
猿ヶ森砂丘のおすすめ観光スポット①:鳴き砂
猿ヶ森の砂浜を歩くと、普通の砂浜とは異なる変わった音がすることに気付きます。
普通の砂浜は歩くと「シャリシャリ」や「ジャリジャリ」といういかにも「砂」と思える音がします。
しかし、ここ猿ヶ森砂丘は歩くと「キュッキュッ」という何とも不思議な音がするんです。
こういった変わった音がする砂浜のことを一般的に「鳴き砂」と呼びます。
なぜ「キュッキュッ」という音がするかというと、猿ヶ森は砂の成分が一般的な砂と異なり、水晶の元となる「石英(せきえい)」から成り立っていることに由来します。
ただ最近はゴミの散乱が影響しているようで、砂が鳴きにくくなってきているようです。
鳴き砂の音を聞きたい方は、足の裏を砂に擦るようにして歩くと、より「キュッキュッ」音を楽しむことができますよ。
猿ヶ森砂丘のおすすめ観光スポット②:ヒバ埋没林
「埋没林(まいぼつりん)」という言葉を聞いたことはありますか?
これは元々陸地の上に生えていた樹木が砂や土といった地層に埋もれてしまい化石になったものです。
埋没林は別名「埋れ木(うもれぎ)」とも呼ばれています。
今からおよそ1000年以前は砂丘が無く、猿ヶ森には一面森林が広がっていました。
それが津波や寒冷などによって立ち枯れ状態になり、海風や飛砂で埋もれ、今日猿ヶ森で見られるような立ち枯れした埋没林になったと推測されています。
ここ猿ヶ森砂丘ではヒバ(ヒノキやサワラの別名)の埋没林が間近で見られ、その歴史を感じ取ることができます。
ちなみに「埋没林」と似たものに「珪化木(けいかぼく)」があります。
珪化木も木の化石なのですが、決定的な違いはその成分です。
埋没林は木の成分が長い間地中に埋もれていた為、強い圧力によって「変成」して炭化、つまりはほぼ炭になったものです。
それに対して珪化木は長い間地中に埋もれて圧力がかかるという点は一緒ですが、木の周りに珪酸を含んだ地下水が入ることで木の成分そのものが二酸化珪素という物質に「変化」します。
どちらも化石という点では一緒ですが物質が異なる為、模様や色、硬さが違います。
興味がある方は埋没林(埋れ木)と珪化木をそれぞれ見比べてみても良いかもしれません。
猿ヶ森砂丘のおすすめ観光スポット③:砂丘湖
猿ヶ森の区域には砂丘湖と呼ばれる湖が20箇所近くあります。
これは、猿ヶ森砂丘が太平洋に面している為、海岸付近の砂が砂洲(さす)という砂溜まりを形成して、砂洲より内陸にある海水が閉じ込められて湖になったものです。
猿ヶ森の砂丘湖は防衛省の管轄外なので、一般人でも立ち入ることができます。
ただ、湖周辺に生えた防風砂林の松が大きくなり過ぎて、湖に続く道は消えつつあるので、湖の中には辿り着くのが難しいものもあります。
猿ヶ森にある砂丘湖は小沼、妹沼、長沼、大沼、タテ沼、左京沼というように、湖というより沼と呼称されることが一般的のようです。
また、猿ヶ森砂丘湖の一部には世界でも大変珍しい、ヒメマリモの生息地でもあります。
猿ヶ森砂丘を観光するときに気を付けることは?
前述の通り、猿ヶ森砂丘の大部分が防衛省の試験場となっている為、立入禁止エリアに置かれた柵の至るところに監視カメラが設置されています。
監視カメラの監視室では恐らく24時間体制で監視員が常駐しているので、あまり柵に近付き過ぎたり、おかしな行動を取ると監視員が飛んでくるかもしれません。
事実過去に猿ヶ森砂丘の立入禁止エリアに侵入し、正門前まで連行されて警察に引き渡されたという事例があります。
もし猿ヶ森砂丘を訪れることがあるなら、「観光客らしい行動」を取るように注意して、不審者に思われることが無いように気を付けましょう。
それと試験場敷地内では実弾発射試験も行われるので、「ドーン」という大きな音が聞こえてきます。
敷地外まで実弾が及ぶことはまずありませんが、とても大きな音なので、びっくりして腰を抜かさないようにしてください。
猿ヶ森砂丘の豆知識!
猿ヶ森砂丘は砂漠じゃない?砂丘の定義
砂丘と砂漠、どちらも「砂」という漢字が付きますが、この2つには明確な違いがあります。
砂丘とは?
砂丘は、山や砂浜にある砂が風で運ばれてきて堆積してできた、地形が丘状になっている場所のことを指します。
島国である日本はご存知の通り周りを海に囲まれている為、大部分が海岸砂丘に分類されます。
砂丘ができる過程は、山をはじめとした地形の岩石が川の水に流されます。
大きくて重い岩石も、気が遠くなるくらい長い年月をかけて削られながら下流へ流れていき、どんどん小さくなり、海の近くに着く頃には砂になっています。
その砂も、波しぶきによって砂浜に打ち上げられ、風で木々をはじめとした自然物の手前で止まり、地面に落ちます。
波しぶきと風で砂が少しずつ堆積していき、結果砂丘ができあがるのです。
砂漠とは?
砂漠には実はちゃんとした定義が存在しています。
砂漠(さばく、沙漠)とは、降雨が極端に少なく、砂や岩石の多い土地のこと。 年間降雨量が250mm以下の地域、または降雨量よりも蒸発量の方が多い地域
※ウィキペディア「砂漠」より抜粋
上の理屈でいくと、日本に砂漠は存在しないということになります。
そもそも年間降水量250mm以下というのは日本ではまずあり得ません。
そうなってしまった日には砂漠どころか、もっと大変なことになってることでしょう。
ですが、日本に砂漠が全く無いのかというと、そうでもありません。
国土地理院地図を参照してみると、伊豆諸島の大島には三原山という山があります。
その山麓には「裏砂漠」と「奥山砂漠」と呼ばれる2種類の砂漠が記載されているのです。
砂漠といっても、降雨量は多いので、厳密には砂漠と呼べません。
でもはじめて訪れる方にとって、その景色は砂漠そのもので、普段見ることの無い風景に圧倒されることでしょう。
猿ヶ森砂丘の名前はアイヌ語からつけられた!
実はこの「猿ヶ森」という地名、アイヌ語が由来とされているんです。
きっと多くの方が「え?アイヌ語って北海道だけじゃないの?」と思われるはずです。
ですが、猿ヶ森のみならず、青森県や秋田県、岩手県、山形県、宮城県など、東北地方各所にアイヌ語由来とされる地名があります。
「猿ヶ森」という地名の由来は「サル・カ・モライ」。
意味は「湿地上流の流れが遅い川」とされています。
他にも幾つか例を挙げると、青森県には「老部(おいっぺ)」や「原別(はらべつ)」、秋田県には「笑内(おかしない)」、宮城県には「登米(とよま)」などがあります。
アイヌ語地名は北海道独自のものと思われがちですが、調べてみるとそれなりに多くアイヌ語由来の地名は見つかります。
北海道(蝦夷)と東北は比較的近い距離にあるので、昔から交流があったということですね。
猿ヶ森砂丘への行き方は?
小田野沢方面
出典:OpenStreetMap and contributors CC-BY-SA
東京方面からだとまず東北自動車道から安代JCTで八戸自動車道へ入ります。
次に八戸北ICを直進し、百石道路(ももいしどうろ)を進み、下田百石ICを降りて国道338号線を約80km程北上します。
「小田野沢」と書かれた青看板があるので、そちらの分岐へ入り、海辺を目指していくと猿ヶ森砂丘に辿り着きます。
駐車場は無いので、周辺住民や通行車両の邪魔にならないように道路の脇に寄せて駐車しておく必要があります。
尻労方面
出典:OpenStreetMap and contributors CC-BY-SA
小田野沢方面を目指すときと途中までは一緒です。
東北自動車道より八戸自動車道、百石道路と走り、下田百石ICを降ります。
その後国道338号線を約80km、青森県道248号線を15km程進み、青森県道172号線に入り、東に走ります。
「高倉」付近にY字路があり、左へ進むと青森県道172号線、右に進むと脇道があります。
尻労方面の猿ヶ森砂丘を目指す場合は、右の脇道へ入り、道なりに行けばやがて砂浜が見えて来て到着です。
小田野沢方面のときと同じように、駐車場はありませんので、駐車スペースはご自分で見つける必要があります。
猿ヶ森砂丘周辺のおすすめ観光スポット5選!
では猿ヶ森砂丘周辺の観光地をみていきましょう。
猿ヶ森砂丘周辺には、以下の観光地があります。
- 尻屋埼灯台
- むつはまなすライン
- 野牛漁港
- 東通原子力発電所トントゥビレッジ
- 野牛川レストハウス
猿ヶ森砂丘周辺の観光地①:尻屋埼灯台
尻屋埼灯台(しりやさきとうだい)は、本州の最北東端に位置しており、日本の灯台50選に選ばれています。
尻屋埼沖は元々船舶航路においては難所とされ、灯台が無かった頃には数々の海難事故が起きたとされています。
レンガ造り灯台の中では高さ日本一とされ、1876年(明治9年)に初点灯されたという非常に長い歴史を持っています。
1945年(昭和20年)にはアメリカ軍の銃撃を受け、大部分が破壊されましたが、1951年(昭和26年)に復旧されました。
この付近一帯は寒立馬(かんだちめ)という馬が放牧されていて、近くからそのたくましくも可愛らしい姿を眺めることができます。
天気が良ければ北海道の陸地も望めるので、絶景を見たいという方には持ってこいの場所ですね。
尻屋埼灯台
住所:青森県下北郡東通村尻屋
電話番号:0175-27-2111(東通村役場)
営業時間:8時~15時45分(4月1日~4月30日)、7時~16時45分(5月1日~11月30日)※12月1日~3月31日は入口封鎖
入場料や利用料:中学生以上:200円
URL:東通村ホームページ
猿ヶ森砂丘周辺の観光地②:むつはまなすライン
景色を見ながらドライブを楽しみたいという方には、この「むつはまなすライン」がおすすめです。
北海道函館市から青森県上北郡野辺地町までは国道279号線となっていて、途中函館市から大間市までは陸地の道路が無い、「海上国道」に指定されています。
その国道279号線には野辺地町から大間市までが「むつはまなすライン」と名付けられた道路があります。
適度に海が見え、時々風力発電の風車が車窓に映ります。
幹線道路である為交通量が多いことや信号が少ないことから、スピードの出し過ぎには注意が必要です。
道路の構成としてはストレートが多めなので、ワインディングが好きな方には少々物足りないかもしれません。
また、5月下旬には道路脇に菜の花が咲き、新緑と併せて目を楽しませてくれるはずです。
むつはまなすライン
住所:青森県上北郡横浜町
入場料や利用料:国道の為無し
URL:無し
猿ヶ森砂丘周辺の観光地③:野牛漁港
野牛漁港(のうしぎょこう)は野牛漁協が本州最北端の東通村で営む協同組合です。
特徴はホタテ貝を「じまき養殖」と呼ばれる、海底で自然な状態で育てるという独自の方法が取られています。
この方法は貝への付着物が少なく、歯ざわりの良いホタテができるので購入者には大変好評なんです。
同じ青森県産で普通の養殖ホタテとは比較にならないくらい身が大きく、食べ応え充分と言われています。
毎年夏には水揚げしたホタテを野牛漁協が夏季限定で販売しているので、ホタテ好きな方は是非。
野牛漁港
住所:青森県下北郡東通村野牛釜ノ平251
電話番号:0175-27-2151
営業時間:9時~16時(7月~8月)
入場料や利用料:ホタテ1kg700円(Lサイズ6枚)
URL:野牛漁業協同組合
猿ヶ森砂丘周辺の観光地④:東通原子力発電所トントゥビレッジ
4番目にご紹介する観光地は、東通村にある原子力施設、トントゥビレッジです。
万が一の際の被害規模は測り知れないものの、極少量の原料から莫大なエネルギーを生み出すことができる原子力発電。
このトントゥビレッジでは原子力発電のしくみを施設内のパネル展示やクイズで楽しく学ぶことができます。
テーマは自然と原子力の調和。
建物屋外には散歩ができるコースもあるので、咲いている花を観賞することもできますよ。
東通原子力発電所トントゥビレッジ
住所:青森県下北郡東通村小田野沢字見知川山1-809
電話番号:0175-48-2777
営業時間:9時~16時30分
定休日:毎週月曜日
入場料や利用料:無料
URL:東通原子力発電所PR施設トントゥビレッジ
猿ヶ森砂丘周辺の観光地⑤:野牛川レストハウス
最後にご紹介するのは尻屋埼に向かう道沿いにある、野牛川レストハウスです。
野牛沼と呼ばれる沼のほとりにあり、休憩室、展示ホール、展望台が備え付けられているので、ドライブの疲れを癒してくれるありがたい施設です。
付近で採れる特産品も販売されているので、ふらっと立ち寄るだけでも面白い場所です。
野牛川レストハウス
住所:青森県下北郡東通村野牛野牛川29-3
電話番号:0175-28-5203
営業時間:9時~16時30分
定休日:毎週火曜日(ただし火曜日が祝祭日の場合は、翌日)
入場料や利用料:料理や商品に寄りますが、およそ1000円~2000円です
URL:無し
【番外編】猿ヶ森砂丘の他に日本の砂丘はいくつあるの?
今回ご紹介した猿ヶ森砂丘や、有名な鳥取砂丘の他にも、日本各地に砂丘が点在しています。
その数はなんと100箇所を超えています。
幾つか代表的な砂丘を3つご紹介したいと思います。
その①:中田島砂丘(静岡県)
静岡県の御前崎岬から愛知県の伊良湖岬までのおよそ110kmの範囲を「遠州灘」といいます。
「遠州灘」には各所に砂丘が点在している為、ひっくるめて「遠州大砂丘」と名付けられました。
その一つがこの「中田島砂丘」です。
浜松市にあり、東西およそ4kmに渡って広がっています。
特徴としては砂が作り出す風紋が美しいことが挙げられます。
ですが、上流にある天竜川のダム工事が影響して風紋が損なわれつつある点が危惧すべきところです。
その②:九十九里砂丘(千葉県)
千葉県の九十九里というと、旭市の刑部岬からいすみ市の大東埼にかけて66kmもある長大な海岸の印象が強いです。
一般的には「九十九里砂丘」よりも「九十九里浜」の名称で親しまれている場所でもあります。
特にサーファーに人気で、温暖な気候が活かされ、真冬でもサーフィンをしている姿を見掛けます。
あまり砂丘というイメージは強く無く、砂丘か砂浜かで意見が分かれることもあります。
この一帯は県立自然公園に認定されていて、植物はハマヒルガオ、鳥類はカモメ、コアジサシ、カイツブリなどの他、ウミガメの生息域にもなっています。
その③:吹上砂丘(鹿児島県)
別名「吹上浜」とも言われる鹿児島県いちき串木野市~日置市~南さつま市に渡って存在する砂丘です。
規模はどれくらいかというと47km。
長さだけで見れば、猿ヶ森すら凌ぐ砂丘ということになります。
鹿児島県立の吹上浜海浜公園が砂丘敷地内にあり、スポーツやレクリエーションを楽しむことができます。
また、海岸は潮干狩りや釣り場があり、春夏にはたくさんの旅行者が訪れます。
青森の猿ヶ森砂丘は広さ日本一?観光できる?行き方や気をつけることのまとめ
日本で最大の砂丘でありながら、その大部分が立入禁止で、地元民にも存在を忘れられがちな砂丘、猿ヶ森砂丘。
観光地として見ることができるエリアは限られていますが、猿ヶ森には鳴き砂、ヒバ埋没林、砂丘湖とマニアックな要素が詰め込まれています。
もし青森県を観光する時間がおありでしたら、是非一度猿ヶ森砂丘に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。